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記事・情報

医療専門家の監修と薬機法チェックを経た記事を掲載しています。内容は一般的な情報提供であり、診断・治療に代わるものではありません。

産後の骨盤底2026-06-10

産後の骨盤底ケアの基礎

出産は、赤ちゃんが産道を通る過程などを通じて、骨盤底に大きな負担がかかる出来事です。骨盤底は、膀胱・子宮・直腸などを下から支える筋肉や組織の集まりで、妊娠中から出産後にかけて、その状態が変化することがあります。 産後は、尿もれを感じる、下腹部に重さや違和感を覚える、以前より力が入りにくいと感じるなど、さまざまな変化が起こることがあります。せきやくしゃみ、体を動かしたときに尿もれを感じたという声も聞かれますが、感じ方や程度には個人差があり、同じ時期に出産した人同士でも状態は異なります。 骨盤底の状態は、出産の経過や体格、妊娠中の過ごし方など、複数の要因によって影響を受けると考えられています。経腟分娩か帝王切開かによっても状態の変化のしかたは異なるとされていますが、いずれの場合も骨盤底に一定の負担がかかることは共通しています。そのため、産後の骨盤底の状態を他の人と単純に比較することは難しく、それぞれの状態に合わせて向き合っていくことが大切だと考えられています。 産後しばらくの間は、体を休めることが優先される時期です。骨盤底に負担をかけすぎない過ごし方を意識しながら、体調の回復に合わせて少しずつ生活のペースを戻していくことが、一般的な考え方として示されています。長時間の立ち仕事や重い荷物を持つ動作は、骨盤底への負担につながる場合があるとされ、無理のない範囲で少しずつ行うことが勧められています。 骨盤底の状態を整える取り組みとして、骨盤底の筋肉を意識して動かす運動が行われることがあります。取り組みの内容やペースは体調や産後の経過によって異なるため、自己判断で無理に進めるのではなく、体調に合わせて行うことが大切です。産後の時期は体調の変化が大きいため、無理をせず、できる範囲から始めることが基本とされています。 産後の骨盤底の状態は、時間の経過とともに少しずつ変化していくことが多いとされていますが、変化のしかたやペースには個人差があります。焦らず、自分の体調に目を向けながら過ごすことが大切だと考えられています。 産後は育児に追われ、自分の体の変化を後回しにしてしまうことも少なくありません。夜間の授乳や慣れない育児で睡眠や休息が十分にとれない時期でもあり、体だけでなく気持ちの面でも負担を感じやすい時期です。しかし、尿もれや骨盤底の違和感は、多くの人が経験しうる変化であり、一人で抱え込む必要はありません。周囲に相談しにくいと感じる場合でも、同じような経験をした人は少なくないと考えられています。 産後の健診の機会などを活用し、気になる症状があれば医療機関や専門家に相談することが勧められています。症状が続く場合や、日常生活に影響を感じる場合は、早めに相談することで、状態に応じた対応を検討できることがあります。体調に不安があるときは、身近な医療機関や自治体の相談窓口など、頼れる先を持っておくことも安心につながると考えられています。

監修:丸山 真理子(産婦人科専門医)

過活動膀胱2026-06-01

過活動膀胱(OAB)とは

過活動膀胱は、急に強い尿意を感じる、我慢することが難しい、トイレの回数が多くなるといった状態を指します。日常のなかで、外出先や会議の途中など、思いがけないタイミングで強い尿意を感じることがあり、生活のなかでの負担につながることがあります。 夜間に何度も目が覚めてトイレに行きたくなる場合も、過活動膀胱に関連する状態の一つとして考えられています。睡眠が妨げられることで、日中の体調や気分に影響が及ぶと感じる人もいます。 誰にでも起こりうる状態であり、年齢や性別を問わず経験されることがあります。加齢とともに感じやすくなる傾向があるとされていますが、若い世代でも経験することがあり、年齢の高さだけが原因とは限りません。症状の感じ方や頻度には個人差があり、軽い違和感程度の場合もあれば、日常生活に影響が及ぶと感じる場合もあります。 膀胱は、尿をためている間は比較的落ち着いた状態を保ち、ある程度たまったところで尿意を感じ、排尿に至るという働きをしています。この働きには神経や筋肉、骨盤底の状態などが関わり合っていると考えられており、膀胱が意図しないタイミングで収縮することが、急な尿意につながる一因として考えられています。骨盤底は膀胱を下から支える役割も担っており、その状態も膀胱の働きに関わりがあると考えられています。 原因は一つに特定できるものではなく、加齢に伴う変化、骨盤底の状態、生活習慣、ほかの病気の影響など、複数の要因が関わっていると考えられています。原因や程度は人によって異なるため、同じような症状であっても、背景にあるものはそれぞれ違うことがあります。 気になる症状がある場合、医療機関では問診によって症状の内容や生活への影響を確認したうえで、必要に応じて検査が行われることがあります。検査の内容や進め方は、症状や状態によって異なります。問診では、トイレの回数や我慢のしづらさ、水分の摂り方など、日常の様子を伝えることが参考になるとされています。 日常生活のなかでは、水分やカフェインのとり方を見直す、トイレのタイミングを整える、骨盤底の状態を意識するといった工夫が取り入れられることがあります。ただし、こうした工夫の感じ方には個人差があり、誰にでも同じように当てはまるとは限りません。 過活動膀胱についての理解が進むことで、症状がある人が声を上げやすくなり、周囲の人もその状態を理解しやすくなると考えられています。家族や職場など身近な人に体調を伝えておくことで、無理のない範囲で過ごしやすくなる場合もあります。 過活動膀胱は、恥ずかしさから相談をためらわれることが少なくない状態でもあります。仕事や外出のたびにトイレの場所を気にしてしまうなど、行動範囲や気持ちの面に影響を感じる人もいます。しかし、症状は年齢のせいだけで片付けられるものではなく、医療機関に相談することで、状態に応じた対応を検討できる場合があります。気になる症状がある場合は、一人で抱え込まず、医療機関にご相談ください。

監修:丸山 真理子(産婦人科専門医)

骨盤底2023-05-04

迷いやすい骨盤底トレーニング機器の選び方:種類の違いと向き・不向き

失禁に悩む人のための骨盤底トレーニング機器は年々増えています。一方で、どれを選べばよいのか分かりづらいという声も多く聞かれます。本稿では、骨盤底領域を専門とする理学療法士の解説をもとに、主な機器の種類や選び方のポイント、利用時の注意点を整理しました。特定の企業・製品の宣伝ではなく、考え方や選定の目安としてご覧ください。 ## 骨盤底トレーニング機器の主なカテゴリー 大きく分けると、次の3つがよく見られます(以下は概要です)。 - バイオフィードバック(いわゆる「ケーゲルトレーナー」) - 膣内に挿入するプローブ(棒状のセンサー)などを用い、収縮やリラックスの状態をアプリやモニターに表示します。 - 筋の状態を“見える化”するための補助であり、単体では治療行為ではないとされています。 - 電気刺激(Electrical Stimulation) - 膣内や肛門内の電極、または体表電極から微弱な電気刺激を与え、骨盤底筋を“受動的に”収縮させる方法です。 - 自力でほとんど筋が入らない人の「きっかけ作り」に用いられることがあります。一方で、持続性(効果の耐久性)に課題があるという研究報告もあります。切迫性尿失禁に関する研究があるとされています。 - メカノセラピー(機械的刺激) - 膣内に挿入したワンドが軽く振動(微小な機械刺激)し、その振動に合わせてケーゲル(骨盤底筋の随意収縮)を行うものです。 - 機械的刺激を用いた筋機能のトレーニングは他の筋群で研究が重ねられており、骨盤底への応用は比較的新しいとされています。 - 「ケーゲルの効果を39倍に高める」という報告があり、1日5分・6週間の実施が紹介されています。米国では特に腹圧性尿失禁に関する研究があるとされています。 - 電気刺激に比べて不快感が少ないと感じる人もいる一方、すべての人に適するわけではありません。 ※いずれの方法にも長所・短所があり、誰にでも同じように合うわけではありません。適否は症状や既往歴、目的により異なります。 ## 自分に合うタイプを考えるためのステップ - 症状を言語化する - 例:腹圧性尿失禁(せき・くしゃみ・笑い・運動で漏れる)、切迫性尿失禁(急に強い尿意が出て間に合わない)、混合性、移動困難によるもの など。 - 研究エビデンスを確認する - メーカーのサイトや問い合わせ窓口に、臨床研究の有無、対象者数、対象となった症状、主な結果などを尋ねるのも一案です。専門的な論文を読み解けなくても、概要説明が得られるかは判断材料になります。 - サポート体制と担当者の資格を確認する - 相談窓口の担当者が、骨盤底領域を扱う医療職など、適切な資格や知識を備えているかを確認しましょう。 - 「万人に効く」とうたうものには慎重に - 体質・既往・目標は人それぞれです。特定の機器があらゆる人に必ず合うとは限りません。 ## カテゴリー別:適応の目安と注意点 - バイオフィードバック - 筋活動の見える化により、正しい収縮・リラックスの学習を助ける補助として有用とされます。個別化された運動プログラムと併用することで役立ちやすいという報告があります。 - 電気刺激 - 自力で筋がほとんど入らない場合の「立ち上げ」に用いられることがあります。受動的な手段のため、長期的な持続性が限定的という研究もあります。切迫性尿失禁に関するエビデンスがあるとされます。 - メカノセラピー - 機械的振動と随意収縮を組み合わせ、筋の募集・筋緊張・筋力の向上をねらう考え方です。米国では、腹圧性尿失禁に関する研究や、骨盤底筋の弱さが症状に関与する場合の選択肢として紹介されています。「39倍」「1日5分×6週間」といった数値は米国の報告に基づくもので、すべての人に当てはまるわけではありません。 ## ケーゲルが適さない場合もある 骨盤底筋の「高緊張(こわばり)」がある人には、ケーゲルが適さない場合があります。目安として次のようなサインが挙げられます(該当すれば必ず高緊張という意味ではありません)。 - タンポン挿入、婦人科検診(内診・器具挿入)時の痛み - 性交時の痛み - 骨盤周囲の痛みや違和感 - 日常のストレスや不安で無意識に腹筋・臀筋・呼吸を固めがち など その場合は、まず呼吸やリラクゼーション、こわばりを和らげるケアから始めることがあります。自宅で使える補助具として、骨盤底ワンド(フォームローラーのように筋をほぐす道具)、膣拡張器(ダイレーター)などが挙げられますが、使用の可否や方法は専門職に確認してください。こわばりが落ち着いてきた段階で、必要に応じて筋のコントロールや強化に進むこともあります。 ## 専門家へのアクセスが難しいとき - 米国では、骨盤底を扱う理学療法士は理学療法士全体の約1%とされ、地域差があります。遠隔(オンライン)相談の活用も広がっています。 - 医療者検索サイトの例として、米国では pelvicrehab.com などが紹介されています(英語)。居住地域や状況に応じて、利用可能な公的・民間の情報源を探してみてください。 - 無料の教育リソースの活用も一案です。米国の患者会サイト(NAFCなど)には英語の解説ページやポッドキャストが公開されています。 ## まとめ - 機器選びは「自分の症状の整理」「研究エビデンスの確認」「サポート体制と担当者の資格」を柱に検討するとよいでしょう。 - バイオフィードバックは“見える化”の補助、電気刺激は“受動的な立ち上げ”、メカノセラピーは“機械的刺激と随意収縮の併用”という違いがあります。いずれも、適否は人それぞれです。 - 痛みや高緊張が疑われる場合は、まずリラクゼーションや適切な評価が優先されることがあります。 気になる症状がある場合は、自己判断で器具を使用する前に、医療機関や骨盤底を扱う専門職にご相談ください。

出典:NAFC(米国全国失禁協会)の記事を翻訳

腹圧性尿失禁2023-05-04

腹圧性尿失禁(SUI)で知っておきたいこと

腹圧性尿失禁(Stress Urinary Incontinence: SUI)は、多くの女性が直面する膀胱の悩みのひとつですが、「どんな状態か」「原因は何か」「どのような対処法があるのか」については誤解も少なくありません。米国NYUランゴーン・ヘルス(ニューヨーク)の泌尿器科で女性骨盤医学・再建外科を専攻する医師、Meredith Wasserman(メリディス・ワッサーマン)先生が、SUIに関する基礎知識と向き合い方をわかりやすく解説しました。 ## 腹圧性尿失禁(SUI)とは - 米国では、女性の約50%が生涯のどこかで尿失禁を経験し、そのうち約50%が腹圧性尿失禁だと説明されています。 - 咳、笑い、くしゃみ、運動、重い物を持ち上げるなど、骨盤底に「腹圧」という負荷がかかったときに尿が漏れるタイプです。 - 漏れ方は数滴のこともあれば、量が多くなることもあります。 ## リスク因子 出産経験のある女性に多いとされますが、出産歴がなくても起こり得ます。挙げられた主な因子は次のとおりです。 - 妊娠・出産 - 肥満 - 喫煙 - 加齢 - 家族歴 - 閉経(ほかのタイプの尿失禁と同様に、SUIの一因とされています) ## 年代とSUI - SUIは、切迫性尿失禁(尿意切迫型)よりも、比較的若い世代から見られることがあるとされます。 - 30〜50代の女性にしばしばみられ、初産後に始まる例もあれば、喫煙による慢性的な咳や肥満が関与する例もあります。 - 閉経期にかけてSUIの頻度は上がる傾向があると説明されています。 ## まず取り組めること:骨盤底筋トレーニング - SUIへの初期対応として、骨盤底筋トレーニング(いわゆる「ケーゲル体操」)が推奨されることが多いとされています。 - 尿道(尿の通り道)を支える骨盤底筋の「力を入れて締める」感覚を養います。排尿を我慢するときのように骨盤底を締めるイメージです。 - オンライン情報やスマートフォン向けのトレーニング用アプリ、骨盤底理学療法士(専門の理学療法士)による指導など、学ぶ手段はいくつかあります。 - 自分に合う方法や正しいやり方については、医療専門職に相談するのがおすすめです。 ## 受診のハードルを下げる工夫 尿の悩みは打ち明けにくいテーマです。恥ずかしさやためらいから受診が遅れることも少なくありません。次の工夫が紹介されました。 - 話しやすい医療者(性別など含め相性の良い相手)を探す - 受診時に、信頼できる家族・パートナー・友人に同席してもらう - 相談したいことをメモに書き出して持参する(口頭で切り出す負担を減らせます) ## 排尿日誌(Bladder Diary)をつけてみる - 排尿日誌は、症状を客観的に把握し、診療の限られた時間で状況を伝える助けになります。 - 1〜3日程度、日常に近い過ごし方の期間を選んで、次のような項目を記録します。 - 飲んだものの種類と量 - 排尿した回数と時間 - 漏れが起きた回数や状況、強い尿意があった時刻 など - 診療科や理学療法士によって日誌の様式は異なりますが、「どれくらい飲み、どれくらい出て、どんな症状がいつ起きたか」を対応づけて理解するのが目的です。 - 気になる症状がある場合は、記録を持参して医療機関に相談してください。 ## どこに相談すればよいか(米国の例) - まずはプライマリケアや婦人科で相談し、必要に応じて専門科に紹介されるのが一般的とされています。 - 米国では、次のような専門職がSUIの診療に関わります。 - 泌尿器科医、ウロギネコロジー(婦人泌尿器)専門医 - 女性骨盤医学・再建外科(FPMRS)を専門とする医師 - 骨盤底理学療法士(骨盤底に特化した追加研修を受けた理学療法士) - 受診先の選択は地域や制度で異なります。日本では対応する診療科(泌尿器科・婦人科・女性泌尿器外来など)にご相談ください。 ## 手術への不安と「メッシュ」の話(米国の状況) - 米国では、膣から留置する「骨盤臓器脱」の一部のメッシュ製品がFDAにより市場から撤回された経緯があります(広告やCMで目にする情報の多くはこの件に関連)。これはSUIの治療とは別の話題です。 - SUIに対しては、尿道の中部を支える「ミッドウレトラルスリング(外科用メッシュを細い帯状にして尿道のハンモックのように支える手術)」が、米国の領域では標準的治療(gold standard)の一つと説明されています。20〜30年にわたり安全性・有用性に関する報告が蓄積しているとされています。 - ただし、手術はあくまで選択肢の一つです。手術を望まない、あるいは準備が整わない場合に検討される保存的な方法もあります。 - 骨盤底筋トレーニング(自己実施または骨盤底理学療法士の指導) - 膣内に装着して尿道を物理的に支える挿入デバイス(必要な場面だけ使うこともあるとされています。例:ランニング、トランポリンなど特定の運動時) - 尿道内の「バルキング(充填)注入」:尿道内腔を部分的に膨らませて抵抗をつくる注入療法。米国では2020年に新しい材料が登場し、欧州では以前から用いられてきたものがあると紹介されています。外来で行われることが多いとされます。 - どの方法が適しているかは症状や体質、希望によって異なります。日本での適応や承認状況は米国と異なる場合があります。具体的な治療は医療機関でご相談ください。 ## 生活の工夫と心構え - 自分の症状が「いつ・どの場面で・どの程度」起きるかを理解することが、対処法を選ぶうえで役立つとされています。 - 喫煙を避ける、適度に運動する、過度な体重増加を防ぐなど、骨盤底への負担を減らす生活は、漏れの予防・軽減につながる可能性があります。 - ただし、どの対処法も万人に同じ結果になるとは限りません。気になる症状が続く場合や生活に支障がある場合は、早めに医療機関にご相談ください。 ## 参考リソース(英語) - Stress Urinary Incontinence - Free Downloadable Bladder Diary - Pelvic Floor Health Center - Surgery For SUI ※米国NAFCの番組内では、医師検索ツール(Doctor Finder)などの案内もありました。日本国内での受診先については、地域の医療機関にお問い合わせください。 ※番組末尾には、米国で認可された骨盤底筋トレーニング機器に関する広告が含まれていましたが、本記事では製品名や宣伝的表現の翻訳は割愛します。

出典:NAFC(米国全国失禁協会)の記事を翻訳

骨盤底2023-03-16

患者さんを第一に――泌尿器科医が語る失禁ケアの「患者の視点」

## このエピソードの概要 米国・ヒューストン・メソジスト病院 泌尿器科部門長のカスリーン・コバシ医師が、排尿・排便に関するとても個人的な悩みを医療者と話すとき、患者さんがどのように感じているか、そして次の受診をより安心で有意義な時間にするためのヒントを語りました。医師は、こうした話題を打ち明ける難しさを理解している――その前提に立ったうえで、診療室での配慮やコミュニケーションの工夫が紹介されています。 (米国では)本ポッドキャスト「Life Without Leaks」はNAFC(National Association for Continence:米国全国失禁協会)が制作しています。司会はブルース・カッソーヴァーさん、NAFC事務局長のスティーブ・グレッグさんも参加しました。 ## 泌尿器科という分野と女性医師の増加(米国) コバシ医師は、医学生時代の選択実習をきっかけに泌尿器科の道へ進みました。自身の父が泌尿器科医だったことも背中を押したそうです。 女性医師の比率については、(米国では)自身がキャリアを始めた当初は国内で約80人程度だったのに対し、直近のAUA(米国泌尿器科学会)の調査では女性の割合が10%をわずかに超えたとされ、志望者も増えており前向きな傾向がうかがえると述べています。 ## 受診までの「最初の壁」 失禁や骨盤底の不調は「年齢のせい」と受け止められがちで、受診につながりにくいことがあるといいます。コバシ医師は、泌尿器科・ウロギネコロジー・骨盤底医療の領域には、生活の質(QOL)の向上につながるとされる選択肢が複数あることが多いので、まずは「相談してよい問題だ」と知ってもらうことが大切だと強調します。 ## 診察室で大切にしていること 患者さんが安心して話せる「安全で思いやりのある場づくり」は最優先といいます。排尿・骨盤底・婦人科(男性では泌尿生殖器)に関する話題は非常にデリケートで、医療者側がガイド役となって言葉を選び、丁寧に聞き取る姿勢が欠かせません。 また、症状の背景には複数の要因が絡む場合があり、「何が最も困っているのか」を一緒に見極める“探索”が必要です。たとえば、 - 咳・くしゃみ・走るなど体に力がかかったときに漏れるタイプ - 急に強い尿意が出て「今すぐ行かないと」という感覚に伴って漏れるタイプ では、対処の考え方が異なることがあります。図や模型なども用いながら、「同じ“漏れ”でも性質が違うことがある」ことを共有し、患者さんと医療者が同じ理解で出発することが重要だと述べています。 ## プライマリケアとの連携(米国の状況) (米国では)まずはプライマリケア(かかりつけ医・看護師など)が入口になることが多い一方、時間や知識の制約から見過ごされることもあるとの指摘がありました。コバシ医師は、プライマリケアの現場では「尿のコントロールで気になることはありませんか?」と一言問いかけ、必要に応じて専門医につなぐだけでも患者さんの道が開けると述べます。最初の段階で一般的な対応(たとえば一部の薬物療法など)を試みる場合もありますが、状況に応じて専門医へ紹介することが勧められるとしています。 ## テレメディシンという選択肢(米国) 地理的な距離は、(米国では)オンライン診療の活用で以前ほどの障壁ではなくなってきたといいます。対面で同じ部屋にいる良さはあるものの、初期相談や経過の確認など、特に排尿コントロールの悩みではオンラインが有効に機能する場面があるとされています。 ## 心の健康と生活の質へのまなざし 失禁は単独の症状に見えて、外出や社交の機会を避けるなど生活範囲の縮小につながり、孤立感や落ち込みを招くことがあります。コバシ医師は、患者さんが落胆しないよう寄り添い、非侵襲的な方法も含めた選択肢があるとされていること、同じ悩みを抱える人は少なくないことを伝える“コーチング”や“カウンセリング”的な関わりも大切だと語ります。 ## 一歩踏み出すためのメッセージ コバシ医師は、「この問題は珍しいことではなく、恥ずかしがる必要はありません。相談できる選択肢があるとされており、生活の質の向上が期待できる場合があります」と呼びかけます。まずは受診して、医療者と一緒に自分の症状を言葉にするところから始めることが勧められます。 ## NAFCからの情報発信(米国) - NAFC(米国全国失禁協会)の情報は NAFC.org で公開されています(米国の団体です)。 - (米国では)Facebook、Instagram、Twitter でも毎日ヒントや最新情報を発信しています。リンクは原文の案内をご参照ください。 - なお、このポッドキャストは(米国で)医療機器メーカー Medtronic の支援を受けており、番組内では仙骨神経刺激療法(sacral neuromodulation)に関する米国向けの情報サイト案内がありました。特定の治療の適応や選択は個別に異なります。 ## クレジット(米国) 番組の音楽は Kevin McLeod「Rainbows」(incompetech.com)です。 ## 受診のご案内 気になる症状がある場合は、自己判断に頼らず、まずは医療機関にご相談ください。症状の性質や重なり方により対応は変わります。適切な受診先やタイミングについても、かかりつけ医に相談することが勧められます。

出典:NAFC(米国全国失禁協会)の記事を翻訳

骨盤臓器脱2022-10-18

ジャナ・トンプソン医師が語る骨盤臓器脱

骨盤臓器脱の症状は、骨盤まわりの軽い圧迫感から、実際に臓器が体の外へ突出して見える状態まで幅があります。多くの人では、重い物を持たないなど日常の注意で経過観察とする場合もあります。治療が必要な場合でも、理学療法から外来で行われる手術まで、選択肢があるとされています。この記事では、米国で泌尿器科医・ウロギネコロジー専門医として骨盤臓器脱を診療するジャナ・トンプソン医師の見解を紹介します(出典:NAFCのポッドキャスト「Life Without Leaks」)。 このエピソードは(英語)Apple Podcasts、iHeart Radio、Spotifyなどで聴取できます。米国では、本ポッドキャストは企業スポンサーの支援を受けており、膀胱・腸のコントロールに用いられる仙骨神経刺激療法などへの言及があります。 ## 骨盤臓器脱とは トンプソン医師によると、骨盤臓器脱は「膀胱瘤(cystocele)」「直腸瘤(rectocele)」「子宮脱」などの名前で呼ばれることがあり、米国では300万人を超える女性に影響があるとされています。骨盤底の筋肉や靱帯の支持が弱くなることで、膣壁が下がり、突出・脱出してくる状態です。 医師は「膣は靴下のような筒状で、つま先側が内側から押し出されて裏返るイメージ」と説明します。膀胱や直腸は膣の上下に位置するため、治療の焦点は「膣壁を本来の位置に支えること」であり、膀胱や腸そのものを縫いつけるのではなく、膣を支えることで周囲臓器の位置関係も整うとされています。 ## 起こりやすい背景(米国での臨床現場から) - 加齢(とくに閉経後)はリスクとされています。 - 妊娠・出産後に一過性に起こることがあり、慢性化して受診に至る例もあります。 - 骨盤の手術歴や腫瘍などが関与することがあります。 - 日常的な強い腹圧(慢性便秘、慢性の咳、重い荷物の反復的な持ち上げなど)が症状出現のきっかけになることがあります。 ## みられやすい症状 - 骨盤の圧迫感、膣のふくらみ感 - 「膣や脚の間から何かの組織に触れる」独特の感覚 - 排尿・排便時に、膣や肛門付近を手で支えると出しやすい(と感じる)ことがある 圧迫感だけでも起こり得ますが、触れる組織の感覚は骨盤臓器脱に比較的特徴的だと医師は述べています。 ## からだの理解と情報ギャップ(米国での課題) 医師は「女性が自身の骨盤解剖を学ぶ機会はまだ十分ではない」と指摘します。救急受診するほど驚いて受診する人もおり、多くはかかりつけ医で病名が伝えられてから専門医に紹介されるとのことです。診療では「まず自分のからだで何が起きているかを図解しながら共有する」ことを重視していると言います。 また米国では、言語や文化的背景の異なるコミュニティ(例:スペイン語話者、アフリカ系アメリカ人など)への情報提供とアクセスが十分でない現状も話題になりました。地域のヘルスフェアや身近な場での啓発の重要性が挙げられています。 ## まず何をすればよいか - 可靠性の高い情報で学ぶ:医師は、まず症状が「有害なものではないか」を知りたいと来院する人が多いと述べます。米国では、大学病院や医療機関のサイト(例:Mayo Clinic、University of Michigan など英語)にも解説が掲載されています。 - かかりつけ医に相談し、必要に応じて専門医を紹介してもらう方法もあります。 ## 診断後の選択肢(一般的に言われていること) 医師は「治療を“しない”という選択もあり得る」点をまず伝えるといいます。医学的に緊急の対応が必要となるケースは稀とされ、どの程度困っているか(生活の中で何が制限されているか)を一緒に確認した上で方針を検討します。選択肢としては次のようなものが挙げられました。 - 骨盤底に特化した理学療法 - 骨盤底の専門的トレーニングを行う理学療法士によるプログラムがあり、一般的な「骨盤底筋体操(いわゆるケーゲル)」のみではない介入が行われることがあります。 - ペッサリー(膣内支持器具) - 個々に合わせてサイズを合わせるシリコーン製の挿入デバイスで、膣内で膨らみを持ち上げて支える道具として用いられることがあります。 - 手術 - 現在(米国では)、外来手術として行われる方法が主流と説明されています。術後はおおむね6〜8週間の活動制限が推奨され、4週間程度で性交渉を再開する目安が示されることもあるといいます。日常的に約23kg(50ポンド)以上を持ち上げる仕事などは、再発リスクに配慮して個別に相談が必要と医師は助言しています。 - 術後は強度な制限を生涯続ける必要はないとの見解も示されましたが、具体的な可否は術式や個人差によります。 ## 手術への不安と医師の見解 手術に慎重な人も少なくありません。医師は、まず保存的な方法(理学療法やペッサリーなど)を試すことには十分な意味があり、たとえ症状がすべてなくならなくても、からだの理解や術後のセルフケアにつながる土台づくりとして役立つと述べています。 ## まとめ 骨盤臓器脱は、症状や生活への影響の程度が人によって異なります。情報を得て自身の目標(何をできるようになりたいか)を明確にし、医療者と相談しながら納得できる選択肢を検討することが大切です。気になる症状がある場合は、早めに医療機関に相談してください。 ## 参考リソース(英語) - Dr. Thompson’s Practice - The National Association for Continence(NAFC)

出典:NAFC(米国全国失禁協会)の記事を翻訳

過活動膀胱2022-10-14

尿失禁の治療に専門医は必要?――コリン・グードロック医師に聞く

本記事は、NAFC(米国全国失禁協会)のポッドキャスト「Life Without Leaks」をもとに、女性泌尿器科を専門とする泌尿器科医コリン・グードロック医師の話を読み物として再構成したものです。受診前に役立つ準備や、インターネット情報との向き合い方、一次医療(プライマリ・ケア)と専門医の役割、過活動膀胱(OAB)をはじめとする骨盤底の不調に対する「ケア・コンティニューム(治療の道筋)」について、初めて受診を考える方にも、これまで解決策が見つからず悩んできた方にも参考になる示唆が語られました。 なお、記事中の制度・統計・用語は米国の状況に基づく記述を含みます。 ## 受診の壁――恥ずかしさと「話題にしにくさ」 グードロック医師は、骨盤底の不調が「人前で語られにくいテーマ」であるがゆえに、診察室でも口を開きにくい患者がいると指摘します。特に高齢の世代では育ってきた文化的背景も影響し、受診しても本心を伝えにくいことがあるそうです。 「この領域を専門にし、骨盤底の健康や尿失禁を本気で扱う医療者に出会うと、初めて“きちんと聴いてもらえた”と感じる方が少なくありません。解決の見通しが示されることで、患者さんは話しやすくなります」と同医師は述べます。 なお、患者の約8割は女性ですが、男性にもOABや手術後の尿失禁(たとえば前立腺がん手術後)があり、男性患者も一定数受診しているとのことです。男性では加齢とともにOABの頻度が女性に近づく傾向があるものの、女性と同じ有病率にはならないと説明しています。 ## 「泌尿器科=男性の科」という誤解 「泌尿器科医は男性を診る」という一般的な思い込みは根強いといいます。歴史的に男性医師が多かったことも影響していますが、現在は女性の泌尿器科医も増え、女性骨盤底機能障害に取り組む泌尿器科の役割も広がっています。異なる視点から支援できる点に意義があると同医師は語ります。 ## 受診前にできる準備――患者教育がカギ もっとも価値が高い準備は「知ること」だと同医師は強調します。信頼できる情報に触れてから受診した患者は、そうでない場合と比べ「意思決定の質が大きく違う」と感じるそうです。治療選択肢や進め方の全体像をあらかじめ知っておくことで、診察時の対話が具体的になります。 インターネット上の情報には玉石混交の側面があり、誤情報の修正に時間を割くこともある一方で、患者の持ち込んだ最新知見が医療者にとっての学びになることもあるといいます。「患者さんが主体的に学ぶ姿勢を歓迎したい」と同医師は述べます。信頼できる情報源へ医療者側から導く工夫(案内カードなど)も有用だとしています。 ## よくある誤解:「年のせいだから仕方ない」 同医師が最大の神話として挙げたのは、「過活動膀胱や頻尿、尿失禁は年を取れば“当たり前”」という思い込みです。これは医療者側から広まることもあるといいます。 「加齢で頻度が高まることと、“普通だから何もしないでいい”ことは別です。この思い込みは、相談する気持ちをくじき、受診や再相談の機会を奪ってしまいます」と警鐘を鳴らします。 ## 専門医は“必須”か?――米国における一次医療の重要性 米国では、OABなど骨盤底の不調に詳しい専門家の数は多くありません。グードロック医師の推計では、過活動膀胱に該当する成人は米国内で約3,700万〜4,800万人とされる一方(論文により幅あり)、専門家は「多くて数千人規模」にとどまるといいます。例えばルイジアナ州の女性骨盤医学の認定泌尿器科医は州全体で9〜10人程度で、都市部に偏在しています。 そのため同医師は、「過活動膀胱は一次医療(プライマリ・ケア)で扱える疾患である」との立場をとります。まずは身近な主治医や産婦人科など前線の医療機関で取り組めるよう、障壁を洗い出して支援することが重要だと述べます。高度な治療(いわゆる“先進的治療”)が必要なケースのみを選別して専門医へつなぐ体制が現実的としています。 ## ケア・コンティニューム(治療の道筋)を知る 治療には侵襲性の低いものから高いものまで幅があります。行動療法(カフェイン・アルコール・酸性の飲食物などの刺激を避ける、膀胱訓練や骨盤底筋トレーニングなど)は副作用や負担が比較的少ない一方、膀胱内に薬剤を注入・注射する治療や、体内にデバイスを留置する治療は負担やリスクが増します。 多くの場合、侵襲性や負担の少ない選択肢から段階的に試み、必要に応じて次の段階へ――という「道筋(ケア・パスウェイ)」で説明されます。全体像を把握しておくと、初期の治療で十分な変化が得られないときも「次の選択肢がある」と理解でき、治療継続への納得感につながるといいます。 ## 選択肢の多さは負担にも――だからこそ教育を 治療の「道具箱」は多いほど個別化に役立ちますが、患者にとっては情報量が負担になることもあります。そのため同医師は、受診前に基本を学び、診察室では疑問点を深掘りする形が有用だと述べます。 ## 侵襲的治療への抵抗感と「困りごとの強さ」 骨盤底の不調では「どれだけ困っているか(生活への支障の大きさ)」が治療選択の中心になります。困りごとが軽度であれば、生活習慣の調整や運動療法、内服などで様子を見る選択も妥当です。一方、1日に多数のパッドを要するなど強い支障がある場合には、手術室を伴う治療など、より踏み込んだ選択肢を検討する方もいます。 近年は、従来“先進的”とされた治療でも、外来ベースや低侵襲で行えるように工夫が進んでいるという報告があります。 ## 現実的な見通し――複数手段の組み合わせが基本 同医師は、単独の治療だけで十分な変化が得られることは必ずしも多くない、と経験を語ります。行動療法で得られた変化の上に、内服や注入療法などを積み上げる「多面的(マルチモーダル)なアプローチ」を前提に考えるのが現実的だと説明します。 また、明らかな改善が得られても、頻尿・尿意切迫・尿失禁が一定程度残る場合もあるとし、受診時に期待値をすり合わせることの重要性を強調しました。 ## 米国の保険という障壁と、その乗り越え方 米国では保険適用の要件や自己負担が治療選択に影響することがあります。保険会社は「適切な患者に適切な治療が行われているか」の確認を求める傾向があり、基準に沿った情報(症状のベースラインや試験的治療での変化など)を迅速に提供することが、患者・医療者・保険者のいずれにとっても有益だと同医師は述べます。 また、内服薬の保険償還(フォーミュラリ)に合わせて処方を選ぶ工夫や、患者の経済的負担をあらかじめ見積もる「ナビゲーター」役の配置など、医療機関側の取り組みも紹介しました。これらは米国の制度に基づく話です。 ## 「口にできることは、扱えるようになる」 同医師が心に留めている言葉として、米国のテレビ司会者フレッド・ロジャースの引用を挙げました。「人間のことは何でも口に出せる。口に出せることは、より扱いやすくなる(Anything that is human is mentionable, and anything that is mentionable is more manageable.)」。何年も誰にも相談できずに過ごしたという患者の話を聞くたびに、「もっと早く伝わる仕組みが必要だ」と痛感するそうです。 「治療によって、たとえば“孫の卒業式に出たい”という願いが現実味を帯びる方もいます。診察室で最も大切なのは、患者さんの生活にとって何が一番大事かを共有することだと感じています」と結びました。 ## リソース(英語・米国向け) - How To Talk To Your Doctor - NAFC’s Find A Doctor Tool - NAFC’s Overactive Bladder Resource Center ※医療制度や保険の仕組み、推奨内容は米国の事情に基づいています。日本での受診・治療は各医療機関でご相談ください。 ## 受診に迷っている方へ - 尿意切迫、頻尿、尿漏れなどが気になる場合は、まずは身近な医療機関(かかりつけ医、泌尿器科、産婦人科など)に相談してください。 - 本記事は一般的な情報の提供を目的としており、特定の治療や機器の効果を断定するものではありません。適切な診断・治療は、個々の状態に応じて医療者とご相談ください。

出典:NAFC(米国全国失禁協会)の記事を翻訳

ケア用品2022-10-14

吸収ケア用品の世界はどう変わりつつあるか――持続可能性と肌配慮から考える

高齢の家族が尿もれに悩み、使い捨て製品の処分にも気をつかっていた――そんな身近な経験をきっかけに、米国で2020年に創業した「ある吸収ケア用品のメーカー」があります。肌への配慮、使いやすさ、環境負荷の低減を同時に追求したいという発想から始まり、いまや吸収体やワイプ、スキンケアなどをそろえる存在へと成長しました。本稿では、同社の実例を手がかりに、吸収ケア用品をめぐる課題と選び方、そして利用者が抱えやすい困りごとについて整理します。 ## きっかけは「 dignified(尊厳)」への違和感 創業者の一人が、いつも身だしなみに気を遣う母親が使い終えたブリーフを新聞の薄いビニール袋に入れて処分する姿を見て、驚きと戸惑いを覚えたことが出発点でした。親しい関係でも言い出しにくい、生活感がにじむ、かさばる――尿もれケアには、製品の機能だけでは解決しにくい場面がつきまといます。そこに「肌にやさしく、扱いやすく、できるだけ環境に配慮した選択肢があってよいのでは」という課題意識が生まれました。 米国では、尿もれは女性だけでも約1,900万人に影響するとされ、男性にも起こり得ます。同社はまず女性に焦点を当てましたが、誰もが直面しうるテーマとして、製品面と体験面の両方を「底上げ」する方針を掲げています。 ## 肌に触れる「一番上の層」を変えるという発想 同社が最初に注目したのは、製品の「トップシート(肌に直接触れる表面層)」でした。従来の多くの製品では、石油由来ポリエチレンのトップシートに、合成染料・香料、塩素系漂白などの工程・添加が用いられることがあります。毎日長時間身につける人もいる吸収ケア用品では、この表面層が肌環境に与える影響が大きいと考え、同社はトップシートを再設計。石油由来原料を避け、サトウキビ搾りかすなどのバイオ由来資源を化学的にポリエチレンへ変換した素材を採用し、合成染料・香料・塩素系漂白などを使わない設計としています。合成素材の持つ「液を素早く引き込み、肌側をできるだけドライに保つ」特性は維持しつつ、肌への配慮と持続可能性の両立を目指した取り組みです。 ローンチ後には「従来品で感じていたかゆみやヒリつきが軽くなった気がする」といった声が多数寄せられたといいますが、感じ方や適合性には個人差があり、すべての人に当てはまるものではありません。 ## 「完璧」を待たずに、できるところから環境負荷を減らす 使い捨て製品である以上、環境負荷をゼロにはできません。同社はその「ギャップを少しでも橋渡しする」という立場をとり、素材選定に加えて、再生可能資源への置き換え、パッケージの見直し(グリーンポリエチレンなどの活用)、カーボンニュートラルな工場との連携など、接点ごとの改善に取り組んでいるといいます。理想に到達するまで立ち止まるのではなく、技術と現実の間を一歩ずつ縮める姿勢が特徴です。 ## 使い手の「迷い」を減らすラインづくり 店頭の棚には類似製品が多数並び、違いが分かりにくい――そんな声に応えるため、同社はラインを絞り込みつつ、必要な強度は幅広くカバーする構成でスタートしました。例として、 - ライナー(ごく軽い尿もれ向け) - ハイブリッドパッド(軽い尿もれと月経の両方に使えるとされるもの) - 中量~多量向けパッド - ブリーフ(プルオンタイプ) といった基本形に、利用者の「この間がほしい」という要望から生まれた中間強度のパッドを追加。周辺品として、バリアクリームやワイプ、デオドラント、ボディオイルなども用意しています。なお、ワイプについては「流せる」「生分解性」などの表示があっても、地域の下水道インフラや使用条件により適否が異なる場合があります。表示や各自治体の案内を確認のうえで判断してください。 ## ものづくりと市場投入のハードル 業界外からの参入は容易ではありません。製造パートナー探しや設計のやり直しの過程で「それはできない」と言われることも多かったといいます。資金調達も一筋縄ではいかず、米国ではベンチャー資金の調達前に家族・友人からの資金を受け、その後に初のベンチャー投資を2020年に実行。ローンチは新型コロナ禍で遅れましたが、発売後は「高齢者はオンラインにいない」という固定観念が誤りであることを示すように、幅広い年齢層からの反応が集まりました。大手ECモールでの取り扱い開始が購入時の安心感につながった、という指摘もあります。 ## 情報とコミュニティでスティグマに向き合う 同社は「加齢そのものや尿もれをめぐるスティグマを和らげたい」というミッションを公表し、製品の提供にとどまらず、情報発信や専門家につながる導線づくりにも力を入れています。米国では、泌尿器科・骨盤底(ウロギネ)をはじめ、鍼灸や骨盤底理学療法など、東西両医学のアプローチが紹介されることがあります。どの方法も万人に同じように当てはまるわけではなく、恒久的な解決を約束するものでもありませんが、症状への向き合い方を知る手がかりになり得るとされています。気になる症状や適切なケアは、必ず医療機関に相談してください。 また、月経用ナプキンでの代用については誤解が生じやすい点です。一般に、尿と月経血は性状が異なるため、必要な吸収材の量や流体設計が異なるとされます。用途に合った製品を選ぶことが推奨されます。 ## 「何が入っているか」を開くというイノベーション ここ数年、若年層向けの化粧品やウェルネスでは、成分と背景を丁寧に伝える姿勢が広がっています。高齢層も例外ではなく、経験豊富な生活者ほど、見た目の変化だけでなく「中身」への説明を求める傾向があります。同社は原材料の開示や調達の透明性を重視し、製品の違いを言葉で伝える取り組みを続けています。 ## 認証・評価と信頼 米国では、同社が創業間もなく有力ビジネス誌の「世界で最も革新的な企業」リストに選出されたことが話題になりました。また、同社はB Corp(ビーコープ)認証も取得。B Corpは、非営利ネットワークが審査する制度で、製品・環境・人材・コミュニティなどに関する高い基準と透明性を満たす企業を認証するものです。認証取得には厳格な審査があり、数年ごとの更新が必要です。世界で約4,500社が登録していると紹介されることがあります(数値は米国の発信に基づく目安)。こうした第三者の枠組みは、消費者が企業の姿勢を見極める一助になります。 ## 吸収ケア用品の選び方のヒント - 吸収量とタイプ:ライナー/パッド/ブリーフなど、漏れの程度や生活場面に合うものを選ぶ - 肌に触れる素材:表面層の素材や、合成染料・香料・塩素系漂白の有無など表示を確認する - サイズ・フィット感:体型や動きに合うか。就寝時・外出時など用途別に検討する - におい対策:どのような仕様か、肌への影響や使用シーンと合わせて考える - 使いやすさ:持ち運びやすさ、目立ちにくさ、処分のしやすさ - 環境配慮:再生可能資源の使用、パッケージ素材、工場の取り組みなどの情報公開状況 - 情報の透明性:成分・調達・製造に関する説明があるか - 入手性と価格:継続利用しやすい購入チャネル(店舗・オンライン)と価格帯 ## よくある誤解と注意点 - 「生理用ナプキンで十分?」:一般に尿と月経血は性状が異なり、設計思想が違うとされます。用途に合う専用品の検討を。 - 「年齢のせいだから仕方ない?」:骨盤底のセルフケアや医療的介入など、選択肢が紹介されています(米国の情報)。適切な方法は人それぞれです。自己判断に頼らず医療機関へ。 - 「高齢者はオンラインにいない?」:オンラインで情報収集・購入する高齢層も少なくありません。信頼できる情報源を選びましょう。 ## 受診のすすめ 尿もれは年齢や出産歴にかかわらず起こり得る身近な症状です。生活の質に関わるため、気になるときは早めに医療機関に相談してください。製品はあくまで生活を支える道具の一つです。自分に合った使い方やケアの選択は、専門家と話し合いながら進めることをおすすめします。

出典:NAFC(米国全国失禁協会)の記事を翻訳

医師への相談2022-09-20

経腟メッシュ、話しにくいテーマを話しやすく――ほかにも大切なこと。Cary Fishburne医師に聞く

米国NAFC(National Association for Continence)のポッドキャスト「Life Without Leaks」での対談をもとに、日本の一般読者向けに内容を整理・翻訳しました。個人差の大きいテーマですので、あくまで情報提供としてお読みください。気になる症状がある場合は、受診先でご相談ください。 ## 概要 米国で女性骨盤医学・再建外科を専門とするCary Fishburne医師は、尿失禁や骨盤底機能障害に悩む方に関わる幅広い話題について見解を語りました。経腟メッシュ(transvaginal mesh)の現状(米国)、抗菌薬耐性の問題、プライベートな症状を医療者と話しやすくする工夫、そして「いつからでも相談は遅くない」というメッセージなどです。20年間「何もできない」と言われ続けた104歳の患者さんの経験談も紹介されました。 なお、米国と日本では制度・承認状況が異なります。本文の規制・承認に関する記述は米国での状況です。 ## リソース(英語/NAFCサイト) - Overactive Bladder Resource Center(過活動膀胱の基礎情報) - Bladder Diary(排尿日誌のひな形) - Talking To Your Doctor(受診時の伝え方のポイント) ## フィッシュバーン医師が診ている疾患の幅 女性の排尿・排便・骨盤痛など、骨盤底機能に関わる不調全般を対象とするとのことです。 - 尿失禁・便失禁、排尿困難や排便困難 - 骨盤臓器脱 - 慢性骨盤痛や性交痛 - 再発性膀胱炎、血尿などの複雑な内科的・外科的対応を要するケース 基礎に神経疾患(多発性硬化症やパーキンソン病など)がある方もおり、一人ひとりに合わせた評価と対応が重視されるといいます。 ## 受診のきっかけと「よくある誤解」 「年をとれば誰でも我慢するもの」と考えて、長年ひとりで抱え込む方が少なくないそうです。フィッシュバーン医師は、これらの不調は生活の質に大きく影響しうるため、まずは情報を得ることが大切だと語ります。外来では、侵襲の小さい選択肢(内服、外来での簡便な処置など)を含め、患者さんの目標に合わせて段階的に検討していくといいます。 ## 介護者・家族とのコミュニケーション 家族や介護者が同席して相談に来るケースも多いとのこと。全身状態や生活背景に合わせ、できるだけ負担の少ない方法でケアする道が模索されます。104歳の方が「何かできることは?」と相談に来られ、本人の希望と安全性に配慮した方針で生活の質の向上につながった、という米国での経験談が紹介されました(個別例であり、同様の結果を示すものではありません)。 ## 話しにくさのハードルを下げるには まずは「ここで話してよい」空気を医療側が作ることを大切にしているそうです。率直な質問で対話を進め、症状が日常に与える影響と、患者さん自身の目標を把握します。診察(身体所見)と組み合わせることで、現実的な選択肢が見えやすくなるといいます。 ## 期待値のすり合わせ 「常に完璧」を目指すのではなく、「より良くする」ことを現実的な到達点として共有することが、結果として満足度につながることがあると述べています。段階を踏み、優先度の高い問題から取り組む「層をはがす(オニオンのように)」アプローチになる場合もあるそうです。 ## 受診前にできる準備 - 症状の出方、悪化・軽減する条件、生活への影響を整理しておく - これまで試した方法と、その時どう感じたか(良かった点・合わなかった点)をまとめる こうした情報が、診断と話し合いに役立つとされています。NAFCの排尿日誌(英語)も参考になります。 ## 現在の標準的な選択肢と課題(米国の現場より) 選択肢の「道具箱」は広がっており、多くの人に合う方策が提案できることが増えているといいます。一方で、再発性膀胱炎では細菌の抗菌薬耐性が課題となっており、再発予防・治療の工夫が求められているとのことです。 ## 経腟メッシュ(transvaginal mesh)をめぐる米国での状況 経腟メッシュは、再発を抑える目的で普及が進みましたが、製品の設計・手技・教育体制が十分に成熟する前に使用が広がり、副作用への懸念が高まりました。米国では数年前、FDA(食品医薬品局)が「短期的な有益性が従来法に十分勝ると示されない」として、経腟メッシュの市販キットを市場から撤回させました(米国での措置)。 その後、同じ研究の3~5年の追跡では「従来修復より成績が良好と示唆する」報告も出てきていると医師は述べていますが、社会的印象は厳しく、米国内で産業界が再投入に踏み切るかは不透明とされています。現在、フィッシュバーン医師の施設では、経腟メッシュの新規使用は極めてまれで、慎重な説明と合意のうえで個別に検討されるという位置づけとのことです(米国での適応外使用に関する話であり、日本の状況とは異なります)。 ここで言及される経腟メッシュと、以下は区別されます(米国FDAの見解)。 - 尿失禁に用いるメッシュスリング - 腹腔内でメッシュを用いる仙骨膣固定術(サクロコルポペクシー) これらは米国では広く行われており、前者の規制対象になった「経腟メッシュの市販キット」とは異なるものとされています。日本での承認・適応・実施体制は異なります。具体的な可否は受診先でご確認ください。 ## 神経調節療法など「上位治療」への認知(米国) 過活動膀胱、尿閉、便失禁に対して、神経調節療法(例:仙骨神経刺激、経皮的脛骨神経刺激[PTNS]など)が選択肢となる場合があります。フィッシュバーン医師は、患者さんだけでなく医療者側でも、これら上位治療への認知はまだ十分でない印象があると述べ、情報提供の重要性を強調しています(いずれも米国での所感)。日本での適応や実施体制は医療機関にお尋ねください。 ## まずは相談を 骨盤底の不調はプライベートな問題ですが、生活の質に深く関わります。相談したからといって、その場で治療を決める必要はありません。自分の状態を知り、選択肢を理解する第一歩として、受診や相談の機会を持つことが勧められています。気になる症状は、まず医療機関にご相談ください。

出典:NAFC(米国全国失禁協会)の記事を翻訳

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