高齢の家族が尿もれに悩み、使い捨て製品の処分にも気をつかっていた――そんな身近な経験をきっかけに、米国で2020年に創業した「ある吸収ケア用品のメーカー」があります。肌への配慮、使いやすさ、環境負荷の低減を同時に追求したいという発想から始まり、いまや吸収体やワイプ、スキンケアなどをそろえる存在へと成長しました。本稿では、同社の実例を手がかりに、吸収ケア用品をめぐる課題と選び方、そして利用者が抱えやすい困りごとについて整理します。
きっかけは「 dignified(尊厳)」への違和感
創業者の一人が、いつも身だしなみに気を遣う母親が使い終えたブリーフを新聞の薄いビニール袋に入れて処分する姿を見て、驚きと戸惑いを覚えたことが出発点でした。親しい関係でも言い出しにくい、生活感がにじむ、かさばる――尿もれケアには、製品の機能だけでは解決しにくい場面がつきまといます。そこに「肌にやさしく、扱いやすく、できるだけ環境に配慮した選択肢があってよいのでは」という課題意識が生まれました。
米国では、尿もれは女性だけでも約1,900万人に影響するとされ、男性にも起こり得ます。同社はまず女性に焦点を当てましたが、誰もが直面しうるテーマとして、製品面と体験面の両方を「底上げ」する方針を掲げています。
肌に触れる「一番上の層」を変えるという発想
同社が最初に注目したのは、製品の「トップシート(肌に直接触れる表面層)」でした。従来の多くの製品では、石油由来ポリエチレンのトップシートに、合成染料・香料、塩素系漂白などの工程・添加が用いられることがあります。毎日長時間身につける人もいる吸収ケア用品では、この表面層が肌環境に与える影響が大きいと考え、同社はトップシートを再設計。石油由来原料を避け、サトウキビ搾りかすなどのバイオ由来資源を化学的にポリエチレンへ変換した素材を採用し、合成染料・香料・塩素系漂白などを使わない設計としています。合成素材の持つ「液を素早く引き込み、肌側をできるだけドライに保つ」特性は維持しつつ、肌への配慮と持続可能性の両立を目指した取り組みです。
ローンチ後には「従来品で感じていたかゆみやヒリつきが軽くなった気がする」といった声が多数寄せられたといいますが、感じ方や適合性には個人差があり、すべての人に当てはまるものではありません。
「完璧」を待たずに、できるところから環境負荷を減らす
使い捨て製品である以上、環境負荷をゼロにはできません。同社はその「ギャップを少しでも橋渡しする」という立場をとり、素材選定に加えて、再生可能資源への置き換え、パッケージの見直し(グリーンポリエチレンなどの活用)、カーボンニュートラルな工場との連携など、接点ごとの改善に取り組んでいるといいます。理想に到達するまで立ち止まるのではなく、技術と現実の間を一歩ずつ縮める姿勢が特徴です。
使い手の「迷い」を減らすラインづくり
店頭の棚には類似製品が多数並び、違いが分かりにくい――そんな声に応えるため、同社はラインを絞り込みつつ、必要な強度は幅広くカバーする構成でスタートしました。例として、
- ライナー(ごく軽い尿もれ向け)
- ハイブリッドパッド(軽い尿もれと月経の両方に使えるとされるもの)
- 中量~多量向けパッド
- ブリーフ(プルオンタイプ)
といった基本形に、利用者の「この間がほしい」という要望から生まれた中間強度のパッドを追加。周辺品として、バリアクリームやワイプ、デオドラント、ボディオイルなども用意しています。なお、ワイプについては「流せる」「生分解性」などの表示があっても、地域の下水道インフラや使用条件により適否が異なる場合があります。表示や各自治体の案内を確認のうえで判断してください。
ものづくりと市場投入のハードル
業界外からの参入は容易ではありません。製造パートナー探しや設計のやり直しの過程で「それはできない」と言われることも多かったといいます。資金調達も一筋縄ではいかず、米国ではベンチャー資金の調達前に家族・友人からの資金を受け、その後に初のベンチャー投資を2020年に実行。ローンチは新型コロナ禍で遅れましたが、発売後は「高齢者はオンラインにいない」という固定観念が誤りであることを示すように、幅広い年齢層からの反応が集まりました。大手ECモールでの取り扱い開始が購入時の安心感につながった、という指摘もあります。
情報とコミュニティでスティグマに向き合う
同社は「加齢そのものや尿もれをめぐるスティグマを和らげたい」というミッションを公表し、製品の提供にとどまらず、情報発信や専門家につながる導線づくりにも力を入れています。米国では、泌尿器科・骨盤底(ウロギネ)をはじめ、鍼灸や骨盤底理学療法など、東西両医学のアプローチが紹介されることがあります。どの方法も万人に同じように当てはまるわけではなく、恒久的な解決を約束するものでもありませんが、症状への向き合い方を知る手がかりになり得るとされています。気になる症状や適切なケアは、必ず医療機関に相談してください。
また、月経用ナプキンでの代用については誤解が生じやすい点です。一般に、尿と月経血は性状が異なるため、必要な吸収材の量や流体設計が異なるとされます。用途に合った製品を選ぶことが推奨されます。
「何が入っているか」を開くというイノベーション
ここ数年、若年層向けの化粧品やウェルネスでは、成分と背景を丁寧に伝える姿勢が広がっています。高齢層も例外ではなく、経験豊富な生活者ほど、見た目の変化だけでなく「中身」への説明を求める傾向があります。同社は原材料の開示や調達の透明性を重視し、製品の違いを言葉で伝える取り組みを続けています。
認証・評価と信頼
米国では、同社が創業間もなく有力ビジネス誌の「世界で最も革新的な企業」リストに選出されたことが話題になりました。また、同社はB Corp(ビーコープ)認証も取得。B Corpは、非営利ネットワークが審査する制度で、製品・環境・人材・コミュニティなどに関する高い基準と透明性を満たす企業を認証するものです。認証取得には厳格な審査があり、数年ごとの更新が必要です。世界で約4,500社が登録していると紹介されることがあります(数値は米国の発信に基づく目安)。こうした第三者の枠組みは、消費者が企業の姿勢を見極める一助になります。
吸収ケア用品の選び方のヒント
- 吸収量とタイプ:ライナー/パッド/ブリーフなど、漏れの程度や生活場面に合うものを選ぶ
- 肌に触れる素材:表面層の素材や、合成染料・香料・塩素系漂白の有無など表示を確認する
- サイズ・フィット感:体型や動きに合うか。就寝時・外出時など用途別に検討する
- におい対策:どのような仕様か、肌への影響や使用シーンと合わせて考える
- 使いやすさ:持ち運びやすさ、目立ちにくさ、処分のしやすさ
- 環境配慮:再生可能資源の使用、パッケージ素材、工場の取り組みなどの情報公開状況
- 情報の透明性:成分・調達・製造に関する説明があるか
- 入手性と価格:継続利用しやすい購入チャネル(店舗・オンライン)と価格帯
よくある誤解と注意点
- 「生理用ナプキンで十分?」:一般に尿と月経血は性状が異なり、設計思想が違うとされます。用途に合う専用品の検討を。
- 「年齢のせいだから仕方ない?」:骨盤底のセルフケアや医療的介入など、選択肢が紹介されています(米国の情報)。適切な方法は人それぞれです。自己判断に頼らず医療機関へ。
- 「高齢者はオンラインにいない?」:オンラインで情報収集・購入する高齢層も少なくありません。信頼できる情報源を選びましょう。
受診のすすめ
尿もれは年齢や出産歴にかかわらず起こり得る身近な症状です。生活の質に関わるため、気になるときは早めに医療機関に相談してください。製品はあくまで生活を支える道具の一つです。自分に合った使い方やケアの選択は、専門家と話し合いながら進めることをおすすめします。